古田足日[ふるたたるひ]『まちがいカレンダー』を再読する(44年ぶり3度め)
「ふるたたるひ」という名を聞いて、記憶の底に埋もれたメモリを呼び起こされる人もいるのではないでしょうか。
漢字で書くと「古田足日」。
彼は童話作家として’70年代を最盛期に多くの作品を残しています。
中でもヒット作となったのは『おしいれのぼうけん』。
たばたせいいち(田畑精一)氏の挿画と共に、記憶に残っている40代50代の読者も多いでしょう。
そのほかにも『大きい1年生と小さな2年生』や『ロボット・カミイ』など多数の児童書や絵本を著しました。
1960年代から始まった古田足日氏の創作活動は世紀をまたいで2000年の現代にまで至り、長きに亘り愛され続けた氏の著書によって幼少期にイマジネーションを掻き立てられ想像力を培われた方々もきっと数多くいるのではないでしょうか。
そんな氏の作品の中で、『おしいれのぼうけん』と同じく、ふるたたるひ・たばたせいいちのコンビで著されたものに『まちがいカレンダー』という本があります。
書影からお分かりのとおり、クリスマス=サンタクロースを題材にした創作童話です。
『まちがいカレンダー』表紙と裏表紙。(クリックで拡大できます)
この本の物語は、こんなかんじ。
【あらすじ】
東京の郊外・サクラ団地に住む小学ニ年のアキラは、明日の十二月一日を心待ちにしていた。十二月一日は、アキラのたんじょう日なのだ。
アキラはいつものように、仲のいい幼稚園みどり組のヒロコ、小学三年生のジローと団地内にある砂場で遊んでいる。ヒロコは明日いなかからおじがおみやげにもぎたてのリンゴを持ってやってくる。ジローはデパートでおとうさんにミニカーを買ってもらうつもりだ。三人とも、十二月一日を楽しみにしていた。
「はやく、あした、やってこうい」そうした中、団地の階段をあがっていく怪しい赤い服の人かげに三人は気づき、追いかけるが見失ってしまう。
その夜。
サクラ団地にサンタクロースのかげが忍び込み、それぞれの家の時計を細工していった……翌朝、頭の中で「ベータ一一九号、ベータ一一九号、応答せよ」というおかしな声を聞いたアキラが目をさますと、おかあさんから「きょうは十一月三十一日よ。おまえのたんじょう日じゃないわ」と告げられる。
「じゃあ、あしたは?」とおとうさんにたずねると、おとうさんはびっくりして答えた。
「あしたは十二月の二日さ」
アキラがあわててテーブルの上の新聞を見ると、新聞の日付は十一月三十一日
となっている。
――世界から、十二月一日が消えてしまっている!!
『十二月一日』に強い思い入れを持ったアキラとヒロコ・ジローの三人は、同じく十二月一日を忘れなかったタンポポ小一年のオカジマコ・ミチコ、バヤシ・ミノルと出会い、十二月一日が十一月三十一日になった理由と、怪しいサンタクロースの集団の謎を解明すべく、街を、世界を駆け巡る――!!
田畑精一氏の挿絵も可愛くもちょっぴりブキミさを併せ持った雰囲気です。
じつは、筆者はこの『まちがいカレンダー』にはひとかたならぬ思い入れがあって、ずっと長いことこの本を探し続けていました。
始めて読んだのは、幼稚園の頃。児童図書館の棚から何気なく取り出した本の表紙絵にスポーツカーに乗るサンタクロースの絵が描かれていたのを気に入ったのでしょうね。
その図書館で一気に最後まで読んでしまいました。
おそらく、生まれて始めて読了した書物はこの『まちがいカレンダー』でしょう。
そのときにあまりにこの本がおもしろく、ずっと心に残っていたところ、入学した小学校の図書館に蔵書を発見。再読したのは、たしか2年生の頃。
自分にとっては、大好きな物語となりました。
『まちがいカレンダー』の発行は1970年。
自分が始めてこの本に出会った時期を思い返すと、ほぼ出版されたばかりの頃に読んでいたのではないか、と考えられます。
ところが残念なことに、肝心のこの本の題名を完全に忘れてしまったのです。
中学生になってふと「あのときに楽しかった本はなんだったんだろう」と思い、本屋などを回ってみたものの、『児童書』『ハードカバー』ということくらいの記憶しかなく、探すことは困難に。
『まちがいカレンダー』という題名を思い出せず、なぜか『12月がこない』と間違って記憶が刷り込まれてしまい、
(もちろんそんな本は無い)
迷宮に迷いこんでしまいます。
高校から大学以後も捜索は継続しましたが、肝心の題名が間違っていれば見つかろうハズもない。
殊に大学は神保町に近い場所にあり、古書街をくまなく回る機会を得たのだけれど、児童書、しかもその類の古本なんて熱心に揃えている店なんて、神田神保町にだってまず無いのです。
そうこうするうちに大学の時代も過ぎてしまい、オタクの時代の中心も神保町から秋葉原へ移り、それに伴い自分も神保町へ足を運ぶのもめっきり少なくなっていきました。
転機が来たのは、ネット時代を迎えSNSが台頭してきた2000年代。
SNSの中に、昔読んだ本を互いに探し出すコミュニティがあり、そこでこの本のことを相談したところ、ようやく正しい題名が『まちがいカレンダー』であるというのが判明。
けれど、既に絶版となっていて、長く再販もされていないことがわかりました。
ここでまた捜索はふりだしに戻ってしまったのでした。
そこでもう諦めればよかったのかと思うのですが、やはり自分が最初に心をときめかせた物語をもういちど改めて読んでみたい、また、いまこうして漫画を描き、物語を創ることの想像の原典は紛れもなく『まちがいカレンダー』である、と思い至り、これを探す旅は留めることをせず続けました。
更に時代が進んだところ、ネット通販のシステムが熟成され、古本購入のネットワークが充実していきます。
ここに至り、ようやく探し求めていた『まちがいカレンダー』の古書を通販で手に入れることができた、というわけです。
改めて読んでみると、サンタクロースが異星からやってきた宇宙人(!)であるという奇天烈な設定や、この世界から12月1日を消し去ってしまおう、という”にせサンタクロース軍団”との戦い、更には地球規模にまで広がる物語世界、などなど……ほぼSFの世界。
かつて眉村卓や筒井康隆の書いたジュブナイルSFにも類似したドラマが展開していたのが判ります。
多少ネタバレを許していただけるなら、にせものサンタ軍団は世界から「12月1日」を消し去り「11月31日」にするため、世界中の人間たちをロボット(!)にし、
(※たぶん洗脳と同義だろうと思う)
この地球を制服しようとします。
そこに挑むのが、12月1日に強い想いを持ち、そのために洗脳されなかった、アキラ・ヒロコ・ジローと、合流したミチコとミノル。この5人を中心に、たったひとり残ったほんもののサンタクロースの協力のもと世界を救う――
SFとしてこれをみると、ジャック・フィニィ『盗まれた街』=映画『SF/ボディ・スナッチャー』のような侵略テーマの作品ですね。(オイ)
ま、それはそれとして、
児童書としてはやたらとスケールの大きな物語だったのではないかナ、と思います。
いろいろと語りたいことは尽きないのだけれど、もし興味があって「これから読んでみたい」という方のために、詳細はぼやかしておきましょう。
もちろんこんなハード(??)な話ばかりでなく、田畑精一氏の味わいのあるカットも魅力です。
おそらく幼い頃の自分はこの絵柄がずいぶんと気に入ったためにずっと記憶に残り続けていたのでしょうね。
※個人情報保護のため画面を加工しています↑
古田足日氏は2014年に逝去されましたが、1960年代から2000年代に至る創作の経歴を通じ、多くの子供たちに夢や想像力を与えてきたのだろうと思います。
かく言う自分も、そんな一人であり、氏の書いた本によってイマジネーションを授かり創造することを知り、この漫画家という表現の場にたどり着きました。
『まちがいカレンダー』は、私にとって、創作の源泉のひとつである、と確信を持って言えます。
今は埋もれてしまっている、こんな素敵な作品があることを知ってもらいたくて、クリスマスに合わせて紹介させていただきました。
現在この『まちがいカレンダー』は絶版のままですが、古田足日氏の全集に収められており、その中で読むことができます。
…とはいっても、これ分売はしていないようなので、ちと高価になってしまうのですが…
児童書の研究をしている方や、図書館などではマストバイかもしれませんね。
SF/ボディ・スナッチャー [DVD]
ボディ・スナッチャー/恐怖の街 [DVD]
※『おしいれのぼうけん』『まちがいカレンダー』を収録。[古書]